この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

タワーリング・インフェルノ

炎に包まれる超高層ビル! そびえ立つ地獄に閉じ込められたパーティーの客たちは・・・

 

  製作:1974年
  製作国:アメリ
  日本公開:1975年
  監督:ジョン・ギラーミン
  出演:スティーヴ・マックイーンポール・ニューマンウィリアム・ホールデン
     ジェニファー・ジョーンズ 他

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    居住者ミュラーの飼い猫
  名前:エルキー
  色柄:キジトラ


◆超高層のあけぼの

 この見出しと同じタイトルの映画があったことをご存じですか。1968年に竣工した日本初の超高層ビル・東京の霞が関ビル(高さ地上147m)完成までの過程を映画化したものです(1969年/監督:関川秀雄)。現在の日本では大阪のあべのハルカスが高さ300mで第一位。634mと世界一高い電波塔の東京スカイツリーはビルではないので、この背比べのランク外となっています。
 現在、世界ランキング上位の多くは中東や中国のビルで、映画の舞台となったアメリカでは、同時多発テロで崩壊したワールドトレードセンターの跡地に2014年に建ったワン・ワールド・トレード・センターが541mで第一位だということ。この映画の「グラス・タワー」とほぼ同じ高さです。

◆あらすじ

 サンフランシスコに地上138階建て・550mの高さを誇る「グラス・タワー」ビルが完成した。1階から80階まではオフィス、81階から120階までは居住専用フロア。今夜は最上階で落成記念パーティが予定され、上院議員や市長夫妻、居住者などが招待されている。その華やいだ空気の中で、設計者のダグ(ポール・ニューマン)は地下の発電設備で電線がショートしたと知らせを受け、電気系統が自分の設計仕様と異なっているのに気づく。経費を削減するためビル施工会社の社長(ウィリアム・ホールデン)の娘婿のロジャー(リチャード・チェンバレン)が無断で変更していたのだ。これを引き金に81階の倉庫で火が出る。だが、防災設備は未完成だった。防災センターの職員が手動で火災報知機を操作し、消防隊が出動する。そんな中でパーティーは予定通り行われる。
 火勢は強くなり、消防隊長のオハラハン(スティーヴ・マックイーン)は、設計者のダグからビルの構造を聞き出して消火活動にかかるとともに、社長にパーティーの客を避難させるよう促す。順番にエレベーターで避難する途中、火災の起きた階でエレベーターが炎にまかれ、非常扉も廃棄されたセメントで固まっていたため、パーティーに出席していた約300人の客は会場に閉じ込められてしまう。非常扉を爆破しても、階段は途中で崩れ、救出に向かったヘリコプターも爆発炎上に巻き込まれて墜落、ビル外壁の展望エレベーターで脱出した女性たちからも犠牲者が出た。隣接するビルからワイヤーを渡して椅子のようなカゴで一人ずつ運ぶのも、多人数を前に無力に近かった。
 パーティー会場に火が燃え移るのも時間の問題となったとき、屋上の給水タンクを爆破すれば消火できるというアイデアが出る。激しい水流で犠牲者が出ることも考えられる中、ダグとオハラハンは爆薬を携えて給水タンクへ向かう・・・。

◆形見の猫

 前回の『ジェニーの肖像』(1948年/監督:ウィリアム・ディターレ)のヒロイン・ジェニファー・ジョーンズが、この映画では中年のお金持ちのミュラー役で出演しています。このとき55歳。これが最後の映画です。あの特徴的な眉毛の描き方ではなかったので、初めはジェニファー・ジョーンズとは気づきませんでした。角度を付けたくっきりとしたハリウッド流美人眉メイクも、70年代にはすたれていたのでしょう。
 ミュラーは夫に先立たれ、この出来立てのグラス・タワーに愛猫のエルキーと共に入居しました。同じ入居者の子どもたちに絵を教えたり、ゆとりのある生活ですが、そこを詐欺師のハーリー(フレッド・アステア)に目を付けられ、親しくなって偽の投資話をもちかけられています。
 ミュラーは絵を教えている子どもたちに火事を知らせ、一緒に逃げる途中で部屋にエルキーを置いてきたことを思い出します。子どもたちに大丈夫だよとなだめられ、一旦パーティー会場に戻ったあと、展望エレベーターで逃げる途中、墜落して亡くなってしまいます。
 地上でミュラーを捜していたハーリーに、消防士がミュラーの死を告げます。そして警備員のジャーニガンが近づき、ハーリーにエルキーを渡します。ジャーニガンは取り残されている人がいないか見回っているときに、ミュラーの部屋にエルキーがいるのに気づいたのです。
 ハーリーは、ミュラーがエレベーターに乗りこむ前に「あなたのことは詐欺師だとわかっていたけれど、これからもずっと一緒にいて」と言われ、自分の詐欺人生を恥じ、光を見出していました。ハーリーはかけがえのない人を失った悲しみとともに、形見となったエルキーを胸に抱き締めるのです。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

◆予防にまさる対策なし

 職場で防火管理者・防災管理者として消防署の講習に参加したことがある方も多いと思います。私もその一人でしたが、東京都の場合(現在は変わっているかもしれませんが)、過去に多くの犠牲者を出した3件の火災のケースレポートをビデオで見せられます。スプリンクラーなどの設備の不備、非常階段に荷物が積まれて避難できなかった、飲み逃げ防止のためお客に隠していた裏口に従業員がお客を誘導せず、自分たちだけ逃げていた・・・など。悲惨なのは、ビル火災で炎や煙で窓際に追いつめられた人が地面を実際より近く感じてしまい、窓から飛び降りて亡くなってしまうことが多い、という話です。人災の面と心理的な面が被害を大きくします。
 この映画の初めに「人命を救うために自分たちの命を犠牲にする全世界の消防士にこの映画を捧げる」という献辞が出ます。消防士の使命感にはただただ感謝を捧げるのみですが、それにもまして重要なのは一人一人が防げるはずの火災を絶対に出さないことであるのは言うまでもありません。

◆パニック映画

 1970年代はパニック映画が流行しました。パニック映画という呼び方はどうやら日本だけで、ディザスタームービーと言う方が一般的なようです。ブームのきっかけは1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』(監督:ロナルド・ニーム)。航海中の大型客船が転覆する映画で、大がかりなセットや特撮を組み合わせ、ハリウッドでなければ不可能と思わせる実写の大作でした。続いてこの『タワーリング・インフェルノ』、日本では『日本沈没』(1973年/監督:森谷司郎)も大ヒット。
 その後、CGを用いたより高度な映像技術が可能になって、動物、細菌やウィルス、異星人など、パニックの原因も多様化したように思いますが、その分、現実感が乏しくなったとも言えます。現実離れした理由には、ひとつには2001年のアメリカでの同時多発テロの影響があると思います。人の行為によって引き起こされた空前の災害のトラウマが人々の心に影を落とし、リアルなものを受け入れがたくしているのではないでしょうか。それがパニックの原因を人間以外のものに求め、架空性を高める理由になっているように思います。
 そして、若い頃はそういう映画にスリルを感じていても、年齢とともに現実に災害で多くの人が苦しんだことを見聞きする経験が蓄積されていくと、作り話でもそうしたものを娯楽と思えなくなってきます。いまの日本人は平成の二度の大震災を始めとする多くの災害の記憶を引きずっています。70年代のパニック映画ブームは、戦争の記憶も薄れ、世界が比較的平和で安定していた時代を象徴するものだったのではないかと思います。

◆スターの競演

 あらためて約半世紀前のこの映画を見てみると、オーソドックスで教科書的なパニック映画だと気が付きます。手抜き工事で経費を浮かせた悪者のために起きた人災、人々を救おうと奮闘するヒーロー、巻き込まれた人々の人間模様を描き出すグランド・ホテル形式。内容的には、観客がパカッと口を開けていればコース料理のように次から次へとおいしいものが飛び込んでくる、おまかせ映画です。
 さらに豪華な俳優陣もこの映画の呼び物。この記事の冒頭で主な出演者を書くときも「この人を出さなくていいのだろうか」と思うような大物が続々。ポール・ニューマンの恋人役にはフェイ・ダナウェイ、パーカー上院議員にはロバート・ヴォーン、踊らないけれどフレッド・アステアなど。ウィリアム・ホールデンは、ジェニファー・ジョーンズと恋愛映画の名作(つまらないけれど)『慕情』(1955年/監督:ヘンリー・キング)以来の共演。
 20世紀フォックスワーナー・ブラザースが初の共同製作で、それぞれのスターを出し『ポセイドン・アドベンチャー』を上回るヒットにしようとこの映画にかけた意気込みがわかるというものです。
 アメリカ映画らしさが匂うのは、マッチョな男性ヒーローの活躍。アクション畑のスティーヴ・マックイーンのオハラハン隊長の活躍はもっともですが、ポール・ニューマンのダグは、設計士にもかかわらず、火災現場でまるでオハラハンの片腕のように働きます。男は強く、雄々しく、というアメリカ映画の神話。実際は素人を現場に出入りさせるはずはないと思いますが、やはり、両映画会社を代表するスター、期待されるヒーロー像を仲良く分け合った感じです。最後にオハラハンがダグに「安全な建物の作り方を教えてやる」と言うのは、現場を知る者でなければわからないことがあるという以上に、頭でっかちな奴より汗水をたらし人のために命すら投げ出す者こそ男の中の男、というメッセージと受けとることができると思います。

◆究極の選択

 さて、もし自分がパーティー会場に残された客だったとしたら、この映画のどの生還方法を選びたいでしょうか。あるいは、絶対にこの方法は嫌だ、というものは?
 私は、椅子のようなカゴに乗ってワイヤーで隣のビルに引っ張ってもらうのはムリ、と思います。地上500メートルを超える高さで、強風にさらされ身を切る寒さの中、ひとりでカゴに乗せられたら失神する人も出ると思います。それに、家のベランダに干した洗濯物を見ていると、強風の日は物干し竿を軸にぐるっと回転して物干し竿に巻きついています。あのカゴに乗ったままワイヤーの周りを大車輪のように回転したら・・・。
 やはり、こんな目に遭わないよう、日ごろから防災意識を高めましょう!

 

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