この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

猫なんかよんでもこない。

  製作:2015年
  製作国:日本
  日本公開:2016年
  監督:山本透
  出演:風間俊介つるの剛士松岡茉優、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆☆(主役級)
    主人公の飼い猫2匹
  名前:チン、クロ
  色柄:白黒ハチワレ(チン)、黒(クロ)
  その他の猫:チン、クロ以外に12匹の猫たちがクレジットされています

兄が拾ってきた2匹の子猫のためにミツオの生活は思わぬ方向に。愛と涙と、青春と猫!


◆出会いがない

 いま猫を飼っている方、その猫とはどんな風に出会いましたか? ペットショップ? 保護猫団体? 捨て猫を拾った? ノラが住み着いた?
 飼い主のいない猫を一旦捕獲して、避妊・去勢手術を施し、再び元いた場所に戻す(TNR)という地域猫の活動が定着し、飼い猫の室内飼いも増え、都会では街を歩いていて猫と会うことが少なくなりました。近くに猫が歩いてきて、手を出して呼ぶとこっちを見て立ち止まり、触らせてくれるかな、と思って一歩乗り出すとさっと路地に逃げる。逃げ込んだ路地を見ると、2メートルほど先で立ち止まってこっちを見ている。再び呼ぶとまたさっと逃げる・・・「猫なんか呼んでも来ない」。そういう追いかけっこの機会も減り、厳冬期のオスの恋鳴きも聞かなくなりました。そろそろ暖かくなり、子猫の生まれる季節。ノラの母猫が子猫を遊ばせる光景も、いつかまた見られるか・・・。

◆あらすじ

 B級ライセンスのプロボクサー・杉田ミツオ(風間俊介)の夢は、A級昇格・世界戦デビュー。ボクシングに専念するために仕事もやめて、漫画家の兄(つるの剛士)の住むアパートに居候中だ。ある日、ランニング中に段ボール箱に入れられた2匹の捨て猫を発見、無視するが、あとから兄が連れてきてしまう。メスのチンとオスのクロ、やんちゃな子猫の世話はミツオに押し付けられた。
 ミツオは試合に勝ってA級昇格を決めたが、網膜裂孔でボクシングを断念しなければならなくなる。兄も故郷に帰ってしまったため、自分で生活費を稼ぎ、猫まで養わなければならなくなった。ある日、外に出て帰らない2匹を捜しにミツオが公園に行くと、若い女性(松岡茉優)が2匹と遊んでいて、ミツオに2匹の避妊・去勢手術を勧める。
 幼稚園の給食室でバイトを始めたミツオは、公園で会った女性・管理栄養士のウメさんとそこで再会し、クロが近所のボスになれるよう去勢手術はしていない、と話す。二人は猫の話を通じて親しくなる。
 ミツオは漫画でチャンピオンになると決意。故郷に帰った兄から漫画の描き方を教わりながら、ボクシング漫画を描いては投稿するが、一向に芽が出ない。一方、ボスになったクロは、ケンカで猫エイズに感染し、苦しんで死んでしまう。
 自分のせいでクロを死なせてしまったと後悔したミツオは、それまでと違った漫画を描き始める・・・。

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◆小さな命

 オーソドックスで型を踏まえた、安心して見られるさわやかな青春映画です。そこにチンとクロという2匹の子猫の成長がからみ、生き物の命を預かることの重さを教えてくれています。子猫の成長は早く、1週間もするとずいぶん見た目も変わっていくので、各シーン相当撮りだめしたのではないでしょうか。
 私はこの映画を、一人でも多くの猫を飼う人に見てもらいたいと思っています。私もこのミツオのように苦い経験をしているからです。
 猫好きと称してこのブログを書かせていただいていますが、私はもうこの20年以上、猫を飼っていません。最後に飼った猫がこの映画のクロのように猫エイズ(ネコ免疫不全ウィルス感染症)を発症し、様々な合併症で死んでしまって以来です。会社の友人から子猫が生まれると言われ、白黒が生まれたらもらう、と言っていたら本当に白黒が生まれ、きょうだいの中でいつも2匹で離れない、足先とおなかの白いメスの茶トラと一緒にもらってきたのでした。
 2匹は、この映画のチンとクロのようにいつも大運動会。メスの方は避妊手術をさせたのですが、オスはそのままにしていたのもこの映画と同じです。その頃の我が家では、猫エイズをはじめとする様々な猫特有の命取りとなる感染症があることなど誰も知りませんでした。今と違って、猫用のワクチンなど浸透していなかった時代だったと思います。メスの方はオスより数年前に急死、オスの様子が変だと気づいて医者に連れて行ったときに、初めて猫エイズの存在を知りました。
 もし、そんな病気を知っていたらと、いまでも後悔で胸が締め付けられます。そして、メスが死んだとき、猫の生命力は人間よりか弱く、人間なら少し様子を見て・・・という時間も、猫にとっては命取りになる、ということを思い知りました。
 どうか、もしまだワクチンを打たずに猫を飼っている人がいたら、そして、以前にワクチンを打ってから放ったらかしている人がいたら、か弱い命をあなたが守ってやってほしいのです。物言えぬ猫を苦しませないように。ミツオや私のように、何の罪もない猫の死に顔を見て、ごめんね、ごめんね、と後悔に苦しまないように。

◆猫は早熟

 もともと犬派で、初めは猫を嫌がっていたミツオが、世話をするうちに次第に猫の可愛さに目覚めていく前半、子猫たちがドタバタとアパートの室内外でじゃれ合う姿には、観客も出演者もスタッフもメロメロになったはず。そんな無邪気な姿にも生まれながらのハンターとしての鋭い敏捷性が備わっていて、一撃で相手を倒す殺気を秘めています。
 そんな段階もいつしか過ぎ、メスのチンが成長してくると近所のオス猫がミツオの部屋の周辺に大集合。これもメス猫を避妊手術せずに飼うと起きることですが、猫は交尾をするとその刺激で排卵するので、妊娠率ほぼ100%。そして「さかりのついたメス猫」という表現があるように、その時のメス猫は本当に恥ずかしい行動を示しますので、それを目にしてショックを受けないうちに、早めの手術をお勧めします。
 一方のオスは、縄張り争いや恋のライバルのオスとの戦いを始めますが、猫のケンカは半端じゃありません。この映画のような感染症だけでなく、重傷を負うことも多く、我が家の先ほどの猫から二代前の猫は片目をつぶされました。こちらも早めの去勢手術をお勧めします。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

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◆人として動物として

 猫であってもほかの動物であっても、子どもの頃は動くおもちゃのような人間の遊び相手だったとしても、成熟したおとなになるとその動物本来の性質が大きくなり、人間のコントロールがきかないものになることがあるのではないでしょうか。ときどき動物園などで起きる飼育員が動物に襲われる事故なども、人間のうっかりした行動がその動物に本来の野生で備わっている行動をリリースするきっかけとなってしまったのではないかと思います。
 最近のペットの動画などを見ると、人間の動物に対する心理的な距離が小さくなってしまって、動物も人間も同じように思ってしまっているのではないか、と思うことがあります。ミツオも、チンとクロがおとなに近づいて性行動を見せるようになって、彼らが自分とは違う猫の血で生きているということを認識するのですが、一方で自分の子どもか何かのように同一化することをやめません。自分が世界チャンピオンになる夢を断たれたので、クロにご近所のボス=チャンピオンになってもらおうとするのです。あまりにも単純と言うか、素朴と言うか。物を言わない動物に、人間は自分を投影しやすい。ミツオの妄想につき合わされたクロは、命をもって動物と人間を一緒にするな、とミツオに教えたのです。

◆パンチ・ザ・にゃあ

 「ボクシングからも漫画からも、俺はいらない、と言われたけれど、チンもクロも俺を必要としていた」とウメさんに話すミツオ。漫画でチャンピオンになるんだ、とボクシング漫画を描き続けていたこと、クロにチャンピオンの夢を託していたこと、そんなボクシングへのこだわりを手放したとき、ミツオに新しい世界が開けます。

 動物を飼う=命を預かるということ、若者の無邪気さと挫折について、この映画は多くのことを語ってくれますが、教訓臭くなっていないところに好感が持てます。これは漫画家・杉作さんの、自身をモデルにした漫画を原作としているからでしょう。実際に体験した豊富なエピソード、そこから生まれた感情の動きが、リアルな重みとなって伝わってくるのです。
 漫画にはまだまだこの続きがありますので、ミツオ、チン、ウメさんがこのあとどうなったかを知りたい方は、そちらをご覧ください。杉作氏のお兄さんは『キック・ザ・ちゅう』という格闘技漫画を描いた杉崎守氏とのこと。兄弟そろって格闘技好き。子どもの頃はきっと兄弟で猫たち以上に大暴れしていたのでしょうね。
 ミツオ役の風間俊介は、NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で、深津絵里演じる二代目主人公のるいと『椿三十郎』(1962年/監督:黒澤明)を見に行って、一度だけデートする弁護士の役で登場。『猫なんかよんでもこない。』では少々絶叫が多くて、走ってるなぁと思いましたが、知的な物腰の大人の役に。彼も小動物系の愛らしい顔をしています。

 

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