この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

落穂拾い

  製作:2000年
  製作国:フランス
  日本公開:2002年
  監督:アニエス・ヴァルダ
  出演:アニエス・ヴァルダ、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    アニエス・ヴァルダのペット
  名前:?
  色柄:キジトラ、黒白
  その他の猫:生理学者マレーの連続写真の白猫

捨てられる食べ物やゴミを拾う人々を追うドキュメンタリー。持続可能な社会とは?


◆どこからがゴミ?

 会社員だった頃、残業帰りにコンビニに夕食用のお弁当を買いに寄ると、目の前で店員さんが、消費期限が近づいたお弁当をポンポン棚からかごに投げ捨てるところに何度か出くわしました。1分前に私が来たらこのお弁当を買って家で食べただろうに、私が買うはずだった物はゴミに相当する物だったのか、このお弁当はこの後どうなるのか、食べ物をあんなに乱暴に投げることないじゃないか、といやな気持ちになり、何も買わずにコンビニを後にしたこともありました。
 年明け第二弾は、捨てられた物から私たちの生き方を考えるドキュメンタリーです。

◆あらすじ

 ミレーの「落穂ひろい」の絵のように、昔は収穫が終わった畑で、取りこぼしの作物を拾い集めることは当たり前だった。すたれてしまった風習なのか、と1928年生まれの映画監督のアニエス・ヴァルダはフランス各地を取材する。
 「自分もやっていたけれど農業機械の導入で今では誰もやらない」と語る人、市場で取引の終わった後の残り物を拾い集める人々、出荷先のスーパーの規格に合わないジャガイモを廃棄する農家、生産計画を超える収穫は全部つぶす生産者・・・アニエス・ヴァルダの旅は、海のカキの養殖地、そして食べ物ばかりでなく、拾ったゴミでアートを創り上げる人々、修理してリサイクルする人々などを追っていく。
 捨てられた物を拾うある人が語った「物の方から自分に声をかけてくる」という言葉のように、アニエス・ヴァルダも思いがけない物や人との出会いに導かれていく・・・。

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◆猫好き監督

 この映画は、きりりとした猫の顔のアップで始まります。監督のアニエス・ヴァルダの飼い猫です。ブラウン管式のデスクトップパソコンのディスプレイの上に乗っています。温かいので、ここに乗る猫、多かったですよね。アニエス・ヴァルダは猫好きで、自分の映画にたくさん猫を登場させています。この猫は、彼女の遺作の『アニエスによるヴァルダ』(2019年)で、貝殻やお花で飾ったかわいいお墓が紹介される「ズググ」という名のキジトラの猫ではないかと思います。『落穂拾い』は、アニエス・ヴァルダが、事典の「グラナージュ(収穫物を拾い集めること)」と「グラヌール(拾い集める人)」の項を読み上げて話が動き始めますが、その事典に猫が頭をスリスリこすりつけ愛嬌を振りまきます。
 この映画の中、アニエス・ヴァルダが日本から帰宅したときの映像には、ほかに白黒の猫も映っています。帰国の荷物の中から「第11回東京国際映画祭協賛企画『カネボウ国際女性映画週間』」(1998年)の冊子が出てくるので、この関連で来日していたと思うのですが、このときの上映作品にアニエス・ヴァルダのものはないようです。日本みやげの中に、富士山や浮世絵の絵葉書があるのは定番ですが、プリクラがあるのがかわいい。有馬温泉の老舗旅館の風呂敷らしき物も見え、彼女を身近に感じます。
 アニエス・ヴァルダがこの映画の取材で訪れたフランスの地主の一人が、連続写真で動物の動きなどを撮影した生理学者のエティエンヌ=ジュール・マレーのひ孫というのも偶然でした。マレーが自身で製作した「写真銃」で撮影した、フィルム映画の元祖のような、白猫が歩くクラシックな画像が珍しいです。

 ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

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サステナブルな世界

 2021年は、SDGsという言葉が一挙に広まりました。Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略です。2030年までを目標に国連が掲げた「行動の10年」が2020年にスタートし、地球環境を守りながらできる開発や誰もが人間として尊重される社会について、加盟各国が17の目標達成のための具体的な活動に落とし込んでいます。
 農業では、目標2「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」、目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」などが関係するでしょうか。気候変動による生産物の質や量の変化、人口とのバランス、安全性など、食料には多くの課題があると思いますが、我々市民レベルで実践したいのは食品ロスの問題だと思います。

 アニエス・ヴァルダは、20世紀も終わりに近づいたある日、取引の終わった市場に散らばっている野菜や果物を拾っている市民を見て、ミレーの絵画「落穂ひろい」を思い出し、その風習をたどる旅に出ます。自分で運転する自動車に、軽量のデジタルビデオカメラを積んで。振出しはミレーの「落穂ひろい」を展示しているオルセー美術館です。
 彼女は危機感を訴えたり、問題意識を喚起しようと緊迫感のある映像で迫ったり、という社会派ドキュメンタリー的な手法をとりません。現代の地球規模での危機を先駆的に捉えたドキュメンタリーと言うより、彼女の興味のおもむくにまかせ、映像作家として自身の介入をできるだけ抑え、スナップのように記録しています。

◆「もったいない」の精神

 そんな中でも、アニエス・ヴァルダが物を拾う人々を見て発した「皆、つましく腰をかがめる」というコメントが印象に残ります。物を拾うのだからかがむのは当たり前、なのですが、その首を垂れている姿勢が、どこか神からの恵みに感謝する敬虔な姿に見えなくもありません。
 彼女のコメントらしいコメントがもう一つ。生産計画を超えた収量のブドウをつぶすブルゴーニュのブドウ農家や、木に残った商品価値の劣るイチジクの実を摘ませない農家に対し「生産者の苦労も権利もわかるけどケチな生産者が多いわ」「“落穂拾い”に目くじら立てて、心が狭いのよ」とチクリ。
 落穂拾いのような、「不要な物を必要とする人へ」「もったいない」の精神は、彼女の言うとおり、たいへん重要です。けれども、一方で、苦労して改良した品種が外国に持ち出されるという事件などから生産者を守る手立ても必要な現在では「ケチ」とばかりは言えない側面もあると思います。

◆正解はどこに?

 アニエスの取材は、カキの養殖場から嵐や大潮のあとに流れ着くカキを拾う人々、スーパーから訴えられたホームレスの若者たちなどにも向かいます。
 カキ養殖場では、養殖場からある程度離れた場所のカキなら取っていいようなのですが、何メートル離れていればいいのか、養殖業者も、取りに行く人も、数字はまちまち、取っていい量についても同様で、正しいルールが共有されず、混乱を招いています。
 ホームレスの若者たちは、スーパーのゴミをあさって食べていたのに、スーパーがゴミに殺菌剤をかけるようになったことに腹を立て、ゴミ箱を倒したり設備を壊したりして訴えられます。彼らは見かけからして主張のありそうなアーティスト風。自分たちの選んだスタイルを邪魔するな、という風情です。
 捨てられたゴミから芸術作品を創り上げる人々も。特に数多くの捨てられた人形を組み込んだ、元レンガ職人の作った「リトナンスキーの理想の家」は、偏執性と創造性の、めまいを呼ぶマンダラ。食べ物と違って新たな命を吹き込まれた物たちは、永遠に残るのでしょうか? 再び捨てられるのでしょうか? 
 アニエス・ヴァルダの関心はこれらの人々の生き方に向けられています。
 国連は「誰一人取り残さない」という思想を掲げていますが、誰もが納得できる循環は、どこまでルール化すれば成り立つのでしょう。何が正解なのか、誰がそれを決めるのか、やり方によっては微妙な話です。たとえば、SDGsのために管理された場所に変わったために、いままでそこから自由に何かを拾って生きていた人々が場所を追われて放浪したりなど・・・。『落穂拾い』に登場する個性的な人々は、そういうあるべき社会が実現しても、またより自分らしい自由を求めてその枠から飛び出して行ってしまうような気がします。

パンデミックの中で

 この映画には続編として2002年に『落穂拾い、ニ年後』、がありますが、それももう20年前。いまは、新型コロナウィルスの流行によって、食べ物を拾うことで生活していた人たちがどうなっているのかが気になります。日本でも、普通の生活をしていた人たちが仕事を失い、生活に困窮する事態が続いています。世界中の多くの人々がそれまでバランスを保っていた暮らしを奪われ、落穂のようにこぼれ落ちてしまうというようなことを、誰が想像したでしょうか。

 『落穂拾い』は、ヨーロッパ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞、フランス映画批評家協会賞の最優秀映画批評家賞を受賞。アニエス・ヴァルダは、この映画の中で1998年に来日していた様子が見てとれますが、その後2018年に来日予定で、体調不良のため中止、2019年に乳がんのため90歳で亡くなります。写真家としてキャリアをスタートし、1954年に映画監督のアラン・レネの勧めで『ラ・ポワント・クールト』で映画監督デビュー。「ヌーヴェル・ヴァーグの祖母」というニックネームのように、親しみと尊敬を集めていたことがうかがえます。
 先ほども言ったように猫好き監督なので、これからも時々彼女の映画を紹介させていただくことになるでしょう。2018年に来日できなかったときの日本へ向けてのメッセージ動画の背景にも、スヤスヤ寝ている猫が映っています。https://cinefil.tokyo/_ct/17261920


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