この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

日本一のゴマすり男

  製作:1965年
  製作国:日本
  日本公開:1965年
  監督:古澤憲吾
  出演:植木等浜美枝中尾ミエ東野英治郎進藤英太郎、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆(ほんのチョイ役)
    主人公の家の子猫2匹
  名前:不明
  色柄:黒白と三毛


高度成長期サラリーマンの必殺技はゴマすりだった! 植木等主演の痛快娯楽作。


◆日の出の勢い

 敗戦による壊滅的な打撃から奇跡の復興を成し遂げ、経済大国に成長し「ジャパンアズナンバーワン」とまで言われた日本。最近の世界の中では経済戦略に後れを取り、いずれ貧乏国に凋落するとまで言われています。実質賃金も伸び悩み、将来に不安を感じた国民はますます貯蓄に走る…と、国内消費も好循環が生まれるきっかけをつかみかねている、という状況です。今年はコロナのリベンジ消費で景気が上昇するのか、第六波が襲って再び冷え込むのか? お正月を迎え、この一年の先行きに明るいものを見つけたいものです。
 そんなわけで今回は、これを見て元気を補給しようと、高度成長期の日本のエネルギーがびっしり詰まったコメディをお送りします。ベタなギャグの数々も昭和の貴重な遺産です。

◆あらすじ

 大学を卒業し、就職の決まった中等(なか・ひとし/植木等)は、定年まで係長どまりだった父親に、ゴマすりは出世の近道、と発破をかけられ、東京の外国車の輸入販売業者・後藤又自動車に初出社する。誰も来ていない時間に出社した等が、勝手にお客さんを試乗させて周囲を慌てさせるが、そのおかげで車が1台売れ、セールス担当の細川眉子(浜美枝)にマークされる。等は入社早々のこんな行動がもとで、庶務課文書係に回され、一日中封筒の宛名書きをさせられることになる。眉子は、そんな等に、自分と同じ契約セールスマンにならないかと持ち掛ける。
 等は、父がサラリーマンのときに同期だった後藤又自動車の社長(進藤英太郎)に泣きついてくれたおかげで、自分の補欠入社が決まったことを知り、このままでは出世はおぼつかない、父の教訓を活かしてゴマすりで出世街道をのし上がろうと決意する。係長、課長、部長、と、趣味や引っ越しの手伝いやらですり寄り、ついに重役の大掃除を手伝った縁で、親会社の後藤又商事の社長令嬢・鳩子(中尾ミエ)と知り合う。鳩子は飛行機の操縦が趣味。等は、後藤又商事の子会社の後藤又航空の試作した飛行機に、操縦免許を持っていると嘘をついて鳩子と二人で乗り込み、二人とも着陸の仕方を知らずに冷や汗をかきながらもなんとか着陸する。そのめちゃくちゃな操縦のせいで飛行機の商談が壊れ、鳩子の父・後藤又商事の大社長(東野英治郎)は、後藤又航空を潰す、と怒り心頭。
 そんなとき、等はアメリカから単独太平洋横断飛行で日本にやってきたジョージ箱田(藤田まこと)という青年に近づき、鳩子と引き合わせる。二人は結婚の約束をするが、鳩子の父が大反対。等は、二人のためにあるアイデアを思いつく・・・。

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◆カゴの中身

 猫の登場時間はわずかですが、猫好きの人なら見て損はありません。映画が始まって3分もしないうちにそのシーンが始まります。
 等の実家は、静岡県の半農のよう。等が門の手前で、母(吉川満子)に、就職試験に合格した、と報告する背景に雪をまばらに頂いた富士山が映っています。等が庭先に入ると、父(中村是好)が豆を天日干しにしている、その傍らに作業台があって、そこに竹籠が置いてあります。その竹籠の中に、黒白と三毛のかわいい子猫が入っているのです。息子がサラリーマン生活を始めるにあたって、父は出世できなかったわが身を振り返り、「ゴマもすり様によっては出世の近道。お前には父さんに代わってでっかいゴマをすり当ててほしい」と語り、等にすり鉢の本物のゴマをするよう促します。若者らしく「現代は実力とファイトさえあれば認められる世の中」と、ここではまだ言っている等。その二人のやり取りの間、初めはおとなしかった2匹の子猫が、本気でバトルを始めるのです。
 三毛、狙いを定めて右の猫パンチ! おおっと~、黒白、リング外から応戦だ!!
 作業台に等が座ってゴマをするのに乗ってくると、今度はその振動で台から落ちまいと、バトルを忘れて踏ん張る2匹。意味はなく出番も短いけれど、ワンポイントでほっこり。意外な映画の意外な猫名場面です。

 ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

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◆東京のレガシー

 1964年の東京オリンピックに向けて様々な都市インフラが開発・整備されたことはご存じかと思いますが、1965年5月公開のこの映画には、そうした施設や建造物の完成からまだ間もない姿が記録されていて、映像資料としても面白く感じます。
 空撮によるタイトルバックの映像では、周囲を田畑に囲まれた中で東海道新幹線の上り下りがすれ違います。映像は東京に向かい、首都高速道路駒沢オリンピック公園などのオリンピックのレガシーに続いて、東京タワー、東京港などを経て、主人公の上京の目的地の、後藤又自動車の社屋があると思われる東京中心部のオフィス街に到着。監督の古澤憲吾の名前がかぶります。
 本編の中にも、オリンピックに合わせて開通した東京モノレール、国立代々木競技場、そして都電の線路が撤去された跡が残る道路が映り、東京の今の形の原点を見ることができます。敗戦からわずか19年でここまでたどり着いた当時の日本のエネルギーには驚嘆するばかりです。それにしても、1964年のオリンピックで作られた競技施設のデザインの美しさには、崇高なものさえ感じます。

◆カブトムシが走る

 等の入社した後藤又自動車は、自動車の輸入販売業者ということで、株式会社梁瀬(現在の株式会社ヤナセ)が映画に協賛し、当時の輸入自動車を見ることができるのもこの映画のポイント。映画の公開の1965年に自動車の輸入が自由化され、ショールーム兼オフィスには、キャデラック、ボルボビュイックといった車好きにはたまらない名車がズラリ。ここに出てくる車のデザインも、全く古臭さを感じさせません。さらに、浜美枝演じる眉子の運転する、フォルクスワーゲンのカブトムシと呼ばれるタイプのオープンカーになるコンバーチブル車が、色と言い形と言い、とてもおしゃれで素敵です。勝気でファッションセンス抜群の眉子にぴったり。この車で首都高を走っていくのですが、ほとんどほかに車が見当たらず、トラックなど全然見られません。これが東京か? と目を疑いたくなります。
 脱炭素社会に向け、車も大きく変革する時代。カブトムシは2019年に生産終了してしまったそうですが、あの愛嬌のあるコロンとした形もまた、20世紀のレガシーのひとつです。

◆あなたのお歳を聞いたなら♪

 そうした記憶とともに、20世紀の大衆文化の記憶もよみがえってきます。
 等が、眉子と食事をして自分のアパートに帰ったあと、部屋で「あなたのお名前なんてえの?」「なか・ひとしと申します」と調子を付けて腰をフリフリ踊るのは、1960年代のテレビの人気番組「アベック歌合戦」の真似です。司会は芸人のトニー谷で、公開録画。文字通り、素人の男女がアベック(男女二人連れ)で舞台に登場し、トニー谷が拍子木を打ってツイストを踊りながらさきほどのような質問をして、アベックがそれに答えたあと、歌を歌って何組かで競い合う、という視聴者参加型番組。トニー谷の質問には「あなたとあなたの関係は?」などというものもあり、「恋人同士でございます」と答えると「あなたとあなたのなれそめは?」と来て、詰まって答えられず、会場がどっと沸く、などということも。この歌うような司会者と出場者の掛け合いのリズム、見たことない人にはわからないでしょうね~。昭和の頃は視聴者がクイズやかくし芸などで登場するTV番組がたくさんありました。いや、懐かしい。
 課長にゴルフの指南を頼んで、課長が「俺の指導は大松式だぞ」と言うのは、東京オリンピック女子バレーボールの監督・大松博文氏が厳しい指導で有名だったところから。
 上流の社交場として日高(ひだか)パーティーというものがあった、ということもこの映画で思い出しました。ここで結ばれたカップルも多数。等の会社の目高(メダカ)という重役が登場しますが、なんで「メダカ」などという名前なのか、と思っていたら、夫妻で若い男女を集めて目高パーティーを催す、というパロディだったのでした。

◆歌って踊って

 『日本一のゴマすり男』は、さかんに植木等が歌って踊る歌謡映画。ヒット曲にあやかって映画が製作されたり、古澤監督も手掛けた「若大将シリーズ」のように挿入歌がヒットしたり、美空ひばりなどの人気歌手やグループサウンズが出演したり、今もあるアイドル映画の源流ですね。植木等が所属したバンド「ハナ肇とクレージーキャッツ」は、『クレージー黄金作戦』(1967年/監督:坪島孝)で、ラスベガスのメインストリートをメンバー全員で横いっぱいに広がって歌い踊るという、すごい映画を残しています。
 1964年に須川栄三監督が『君も出世ができる』というミュージカル映画を作りました(植木等も少しだけ出演しています)。悪くはないのですが、借りもの感がぬぐえません。個人的には、宝塚っぽい恋愛ミュージカルにしておけば意外にヒットしたのではないかと思うのですが・・・。
 『日本一のゴマすり男』の、植木等の踊りを見ていると「ナンバ」の動きが見られます。右手と右足のように、同じ側の手足を出して進んで行く動きです。明治時代、日本がフランス式の軍隊を導入したとき、行進させるとナンバで歩き出すので指導者が苦労した、という話をどこかで聞いたことがあるのですが、日本人はナンバの動きが自然に出るらしいのです。そして、植木等は、バンザイをして片足を上げ、次の瞬間上半身をシーソーのようにバサッと倒す、という動きをよくやります。ナンバのステップとこの動きを組み合わせると、「ドンドンドンドン、ドドンがドン」というリズムにぴったりはまります。輸入物ミュージカルと異なる血、日本らしさを感じずにはいられません。

◆ジャパニーズサクセスストーリー

 上役と見ればおべっかを使って評判が悪くなり、眉子は等に忠告するのですが、等は意に介さず眉子と賭けをします。1年以内に等がゴマすりで出世できたら、眉子は等のものになる、できなければ契約セールスマンになって、等は眉子の助手として働く、と。こんな賭けもアメリカの恋愛コメディだったら、眉子を獲得しようと奮闘努力する主人公のドタバタを描くのでしょうが、この映画では「眉子をモノにする」という動機は脇に置かれ、あれよあれよと幸運が開けて行きます。最後は「運も実力のうち」という言葉で締めくくりましょう。

 クレジットされていませんが、加藤茶が等の大学の後輩役で、すでにあの芸風で出演しています。

 

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