この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

ルイスと不思議の時計

  製作:2018年
  製作国:アメリ
  日本公開:2018年
  監督:イーライ・ロス
  出演:オーウェン・ヴァカーロ、ジャック・ブラックケイト・ブランシェット 他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆(ほんのチョイ役)
    魔法の修業用の猫2匹
  名前:なし
  色柄:長毛のオレンジ・短毛のレインボーカラー

個性的なおじさんおばさん魔術師に守られた、10歳のルイスの物語。カボチャがあるけどハロウィンじゃない!


◆ファンタジーワールド

 原作は1973年にアメリカのジョン・ベレアーズが発表した『壁の中の時計』という児童文学。映画と原作はだいぶ違っています。
 「猫が出てくる映画」という条件に合えば、ジャンルを問わず取り上げます、と言った私ですが、実は、ファンタジーものは苦手です。読書の分野でも子どもの頃からファンタジー系には手が伸びませんでした。ファンタジーと言えば…という、あの映画もその映画も見ていません。そんなお前にはこの映画を語る資格がない、と言われてしまいそうですが、実は、この映画は、私には珍しく、見始めてから最後まで見通すことができたファンタジーだったのです。その理由、この文章を書いていてだんだんとわかってきました。ファンタジーファンからは何言ってんだと石つぶてが飛んでくることを覚悟で、始めてみようと思います。

◆あらすじ

 1955年、両親を事故で亡くした10歳のルイス(オーウェン・ヴァカーロ)は、ママの兄のジョナサン伯父さん(ジャック・ブラック)のもとに引き取られることになった。ルイスが初めて会った伯父さんは、腹の突き出たひげもじゃの中年男。伯父さんは古い大きな時計だらけの屋敷に一人で住んでいて、お隣のツィマーマン夫人(ケイト・ブランシェット)がしょっちゅう出入りしている。ルイスは学校でタービーという男の子と仲良くなるが、タービーから伯父さんの家は呪いの家だ、と聞かされる。
 そんなとき、ルイスは真夜中に伯父さんがオノで壁を叩き壊しているのを見る。驚いて逃げ出そうとすると、時計や椅子や家じゅうの物がルイスの邪魔をする。そこに伯父さんが来て、「この家の元の家主の魔術師・アイザックが壁に隠した時計を探していた。自分も魔術師だ」と言い、魔術を教えてもらうことになる。お隣のツィマーマン夫人も、優秀な魔術師だった。
 魔術の腕を磨いたルイスは、呪文を教えてあげる、とタービーを家に誘う。ところが、伯父さんに開けたら家を追い出すと言われていた戸棚から、タービーが降霊術の本を取り出してしまい、ルイスがタービーを責めると、タービーは冷ややかな態度で帰ってしまう。その夜、死んだママがルイスのもとに現れ、降霊術の本を使って魔術を見せればタービーと仲直りできる、と言う。ルイスはタービーを誘って墓地に行き、アイザックの死体を蘇らせてしまう。
 邪悪な魔術師・アイザックが蘇ったことに気づいた伯父さんとツィマーマン夫人が二人がかりでも解読できないアイザックの残した暗号を、ルイスが読み解く。ルイスはアイザックを蘇らせたのは自分で、アイザックが邪悪だとは知らなかった、と二人に打ち明ける。そこにアイザックと、死んだはずのアイザックの妻の魔女がやってくる。ルイスのもとに現れたママは、魔女が化けていたのだ。ルイスたち三人は、アイザックが悪魔に魂を売って手に入れた、時を逆回転させる魔術を止めようと立ち向かう・・・。

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◆猫砂でしろ!

 ルイスは、伯父さんから魔術を教わった、と言うより、魔術の教則本を伯父さんにどっさり渡され、独学で取り組みます。その本の中の「ネコ科のテレパシー」というページを見ながら、ルイスがふさふさのオレンジ色っぽい長毛の猫が入ったかごに布をかけます。しばらくして布を取ると、猫は品種で言えばオリエンタルのような、毛のごく短いスリムな猫に変わっています。しかも、毛色は蛍光のレインボーカラー。
 この映画での猫の登場シーンは、映画が始まってから30数分ほど進んだここだけなのですが、ほかに「準猫」と言っていいキャラクターが時々登場します。伯父さんの家の庭にある、植木を刈り込んで作った翼のあるライオンの像です(もちろんCG)。
 魔術師の伯父さんの家では、安楽椅子が移動したり、ステンドグラスの絵がいつの間にか変わったり、と、色々な物が動くのですが、この植木の有翼のライオン像も動き回ります。ところが、このライオン君、お尻クセが悪く、時々「大」の方を噴射するのです。伯父さんは、そのたびに「ドラ猫め! 猫砂でやれ!」と、ライオン君を猫扱い。ライオン君のこれは一種のマーキング行動かな、と思いますが、ネコ科の動物たち、「小」をスプレーはしますけど、まさか「大」を飛ばすとは…?

 ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

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◆毒舌カップ

 何がこの映画でよかったかと言えば、ジョナサン伯父さんとツィマーマン夫人の毒舌のやり取りです。伯父さんは、ちょっと頭でっかちで、おなかの突き出たメタボ体型。夜中にサックスを吹いて近所の人から苦情を頂戴したり、と、自由な性格。子どもに好かれそうな人です。
 その伯父さんと古くからの仲良しのツィマーマン夫人を、クールビューティのケイト・ブランシェットが演じます。ツィマーマン夫人はいつも髪をアップにまとめたスレンダーなスタイルで、伯父さんには不釣り合いな美人。持ち物も、服も、みんな紫。さらに、伯父さんより魔術の腕は上で、大学で魔術の博士号を取ったというインテリです。
 その外見も中身も対照的な二人が、バシバシやり合う言葉のやり取りが面白いのです。一例を挙げれば、ルイスが初めて伯父さんの家にやってきて、お互いを紹介するとき。伯父さんがツィマーマン夫人を「お隣のクソばばあ」と紹介すれば、ツィマーマン夫人はルイスに「伯父さんの頭でっかちが遺伝しなくてよかった」と言い、伯父さんがツィマーマン夫人に「綿棒みたい」と言うと、「デカい頭が怒ってる」と、こんなありさま。こうしたやり取りができるのは、伯父さんとツィマーマン夫人が、遠慮のない気心の知れた者同士だということ。二人とも一人暮らし。ルイスを含め、三人とも家族がいないのです。

◆一人ぼっち

 孤児になったり、何らかの理由で親と離れ離れになった子どもが別の養育者のもとで成長する、というのは児童文学によくあるストーリー。人間は成長する過程で必ず親から離れ、孤独を学ばなければならないのですが、児童文学のこうした主人公たちは、自立心の芽生えより一足早く親と別離します。まだ心の成長が十分でないこの段階の子どもたちには、甘えられる存在が必要なのですが、どんなに養育者が心を尽くしても、この人は親じゃないんだから、という心の壁が子どもの中にはあるようです。
 ルイスもやはりどこかで遠慮があり、親が恋しいのです。タービーがよそよそしくなって落ち込んでいたときに、ママが夢枕に現れてタービーに魔術を見せなさいと言うと、たちまちママの言葉に飛びついて伯父さんの言いつけに背いてしまいます。
 ルイスが死人を蘇らせる魔術に挑戦したのは寂しかったからです。転校先になじめなかったルイスに唯一仲良くしてくれたのはタービーですが、タービーは学年の委員長選挙期間中だけルイスに親切で、委員長に選ばれてしまうとルイスに目もくれなくなってしまう嫌な奴。伯父さんも、アイザックが隠した時計のありかを突き止めようと忙しくて遊んでくれません。自分に関心を持ってもらいたくて、叱られるようなことをするのは子どもの常套手段。無視されるより叱られることによって、精神的報酬が受け取れるのです。

◆ミッドナイト操縦士

 ルイスは、第二次世界大戦頃の戦闘機のパイロットがするようなゴーグルを額に着けています。これは、テレビの『ミッドナイト操縦士』という連続ドラマのヒーローを真似たもので、ルイスは彼の不屈の精神に憧れています。けれども、タービーが、ルイスのゴーグルが変だからみんなが友達になってくれない、と言うので、ルイスは学校でゴーグルをするのをやめます。
 『ミッドナイト操縦士』というテレビドラマは架空のもの。舞台となった1955年には、アメリカではテレビドラマがかなり放映されていたようですが、日本ではテレビの本放送が始まるのが1953年で、一般家庭ではテレビはほとんど普及していなかった頃です。
 『ミッドナイト操縦士』を見ていたおかげで、ルイスはアイザックが生前残していった図面の暗号が、ミッドナイト操縦士に出てきた暗号と同じだということに気が付きます。ココア(テレビのスポンサー企業の?)のおまけの「ミッドナイト解読装置」を手に入れ、蘇ったアイザックが時間の流れを逆転させる魔術を今夜実行するということがわかります。

◆心の傷

 伯父さんとアイザックは、以前、大親友で、ヨーロッパで魔術師コンビとして活躍していたのですが、アイザックが第二次大戦で兵役につき、戻ってきたら別人のようになっていてコンビを解消したのです。アイザックが邪悪な魔術に取り付かれたのは、時を逆転させ、忌まわしい戦争をなかったものにしたかったから。
 「一人前の魔術師は魔術を使って邪悪な者に勝つ」という教えにもかかわらず、優秀なはずのツィマーマン夫人は、以前負った心の傷がもとで、大きな魔術は失敗してばかり。アイザックとの対決にも消極的でしたが、人質になったルイスのピンチと、アイザックへの怒りにパワーが復活。
 ここから先の魔術対決の評価は、ファンタジー映画に詳しい皆様にお任せしましょう。ただ、私はここで気が付きました。ジョナサン伯父さんと一緒に鎖で縛られていたツィマーマン夫人が、鎖を断ち切り、指先からパワー光線を発射したときに、胸がスカッとしたのです。それは小さい者を守るために戦うカッコいい女の姿。トラ猫ジョーンズや少女を守った『エイリアン』(1979年/監督:リドリー・スコット)『エイリアン2』(1986年/監督:ジェームズ・キャメロン)のリプリーのように。どうも、私は戦う女にぐぐっと惹きつけられるようです。そして、伯父さんと丁々発止とやり合うユーモア、芯の強さ、大人の女としての魅力、ケイト・ブランシェット演じるツィマーマン夫人が、ファンタジーの苦手な私を最後まで引っ張って行ったのでしょう。

◆家族の物語

 ツィマーマン「夫人」と言うように、彼女には家族がいました。詳しい事情は語られませんが、娘を守ることができなかったというのが彼女の心の傷です。
 ジョナサン伯父さんは、若い頃、魔術師を志したものの、父親から反対されて家出してしまったのです。それ以来、実家には一切近づかず、妹、つまりルイスのお母さんのお葬式にも行きませんでした。
 ルイスが死者を蘇らせる魔術に挑戦したもう一つの理由は、両親を蘇らせれば家へ帰れると思ったからです。ママが恋しい、とルイスが泣きながら訴えるのを聞いて、伯父さんは子どもを育てる難しさから逃げ出そうとします。そんな伯父さんを「臆病者!」と押しとどめたのはツィマーマン夫人。三人の絆は強まります。

 この映画は、子どもと大人、家族のあり方を子どもにもわかりやすいように真面目に描こうとしています。大人から子どもに教訓を垂れる形式の物語ではなく、大人と子どもが、それぞれお互いに学び合っているのです。
 魔術対決のシーンはファンタジー映画としてはそれほど注目すべきものではないのかもしれませんが、私にはこれでも十分すぎるくらいなのではないかと思えます。同じ魔術でも、惑星や星雲が庭に浮かび上がるシーンが幻想的で、夢を見ているように魅了されました。映画は現実にあり得ないアクションを描くことだけでなく、ありえない美しさを表現することをもっと目指していいのではないでしょうか。

 ただこの映画、子どもウケを狙ったのか、排泄系のギャグがたびたび出てくるので(いいお話なのにこういうところで品位を落としてしまっているのが惜しい)、食事をしながら見ることはおすすめしません。あ、ただし、チョコチップクッキーを用意しておくといいですよ。

 ルイスは、タービーを懲らしめ、再びゴーグルを着け始めます。そしてローズ・リタという昆虫が大好きな女の子と仲良しになります。彼女はゴーグルを着けたルイスが昆虫みたいに見えて、ずっと気になっていたのです。

 


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