この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

レンタネコ

ウソかまことか、まことかウソか。人の心にぽっかり空いた穴に効くネコ、お貸しします。


  製作:2011年
  製作国:日本
  日本公開:2012年
  監督:荻上直子
  出演:市川実日子草村礼子光石研山田真歩田中圭小林克也、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆☆(主役級)
    サヨコの貸す猫などクレジット全17匹
  名前:「歌丸師匠」のほか、レンタル中に「マミコ」と名付けられた子猫、
     お客さんが以前飼っていた「モモコ」以外は不明。

  色柄:茶トラ、黒白ハチワレ、茶白、三毛など・・・


◆毎度おさわがせ

 「レンタ~ネコ。レンタ~ネコ」「ネコネコ」
 ハンドマイクのこの声が聞こえてきたら、財布を握りしめてダッシュしてしまいそうです。
 最近は流しの物売りの声をあまり聞かなくなりましたが、冬になると焼き芋屋さんだけは必ずやってきます(不思議なことに待ち構えていると来ないもの)。我が家の近所では以前、野菜や餃子を売る軽トラックなどが来ていましたが、コロナの影響か、見かけなくなりました。この夏はマスクを外して夏祭りの露店も楽しめるか、と思っていたら第七波がひたひた。気の抜けない日はまだ続くようです。

◆あらすじ

 一緒に暮らしていた祖母と2年前に死に別れ、古い庭付きの家に一人で住んでいるサヨコ(市川実日子)には、子どもの頃から自然と猫が寄ってきた。子猫から年寄り猫まで全部で8匹ほどの猫の面倒を見る彼女は、リヤカーに猫を積んで猫を貸し出す「レンタネコ」の行商をしている。
 今日は吉岡さんという品のいいおばあちゃん(草村礼子)に声をかけられ、簡単な審査で前金千円を受け取って茶トラの猫を貸し出した。一人暮らしの吉岡さんは少し前にそっくりな茶トラのモモコを亡くしたばかりだった。レンタル期間は吉岡さんが他界するまでだったが、ほどなくその日がやってくる。部屋の後始末に来た息子から、サヨコは猫を引き取って帰る。
 次に猫を借りたのは、単身赴任中の中年サラリーマンの吉田(光石研)だった。吉田はかわいかった娘が成長して冷たくされるようになり、単身赴任が終わることを恐れていた。子猫を借りた吉田は元気を取り戻し、サヨコから猫を譲り受けて家に帰っていった。
 サヨコは「今年こそ結婚する」「新婚旅行はハワイ」と目標を紙に書いて部屋に貼り出していた。ある日、レンタネコの行商中に「ハワイ旅行が当たる」という宣伝ののぼりを目にしてレンタカー屋に入っていくと、一人で店番している女性・吉川(山田真歩)に出会う。彼女がいつも一人ぼっちで寂しいことを知り、彼女に待ち人が現れるまで猫を貸し出すことにする。ところが吉川は自分で自分の会社の車を借りてハワイ旅行のくじを当て、猫を一旦サヨコに返して旅立って行った。
 今日もまたサヨコが行商に出ると、中学の時の同級生の男子「うそつきはったりの吉沢」(田中圭)とばったり出会い「ジャミコ」と呼び止められる。吉沢は猫を貸してほしいと言うが、サヨコはツンとして家に帰ってしまう。吉沢はサヨコの家までやって来て、一緒にビールを飲みながら昔話をしたりするが、猫を借りずに帰ってしまった。やがて、吉沢のことを尋ねる人が来て・・・。

◆猫いらんかえ~

 江戸時代の町などは物売りをして歩く人が多く、たいへん賑やかだったと聞きます。人口が増えるとともにネズミの害が増えて猫を飼うようおふれが出され、隣近所で猫の貸し借りも行われていたそうです。ネズミを捕ってもらおうとせっかく猫を借りてきたのに、慣れない環境で縮こまってしまったのをたとえたのが「借りてきた猫」の由来。
 『ハリーとトント』(1974年:監督/ポール・マザースキー)では、ハリーは以前、猫のセールスマンをしていたと言っていますが、広大なアメリカでは猫を手に入れようとしても、そのへんで拾ったりもらったりできるような環境ではなかったということでしょうか。
 サヨコが貸し出す猫の役目は、借りた人の心の中の寂しい穴ぼこを埋めること。ほとんどのシーンに猫が登場し、映画を見る人の心の穴ぼこを埋めてくれます。こうした映画ではしばしば猫が擬人化されたり、お値段の高そうな猫がこれでもかとばかりに観客アピールしたりすることがありますが、『レンタネコ』は普通の猫の姿が映っていて和みます。サヨコがレンタルする猫もサヨコの家で放し飼いにされている雑種の「Cランク」の猫たちばかり。映画のために動物プロダクションが貸し出す猫たちも、ブランド猫・そうでない猫で、お値段のランク付けがなされているのかもしれません。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

◆儲けなし

 猫をリヤカーに乗せてレンタルという、現実にはありそうにない商売をしているアラサーとおぼしきサヨコの、とある夏の日々を切り取ったこの映画には、浮遊感覚と言うべき空気が漂います。レンタル契約は、猫を貸し出すときにサヨコが審査し、合格したら借用書にお客がサインし、前金を払って成立です。審査と言ってもいい加減なもので、サヨコが見てこのお客がちゃんと猫をかわいがってくれると思えば合格で、借用書もお客の名前と猫の色柄と、漠然といつまで借りるかを書くだけという、法的な形式など調っていないもの(実際は第一種動物取扱業者として法律で厳しい義務が課されます)。
 わずかな金額でサヨコの生活が成り立つのかお客が心配そうにすると「私は株で毎日億の金を動かしています」「占い師で“多摩川の母”と言われています」「テレビコマーシャルの作曲をしています」とその都度違う話をし、実際に彼女がその仕事をしているイメージ映像が流れます(全部猫がアシスタントをしています)。
 かと言ってサヨコが怪しい商売を目論んでいるわけではなく、何で食べているのかはよくわかりませんが、寂しい人の心の穴ぼこを埋めるためにレンタネコをしているのです。まあ、ボランティアに近いものでしょう。そのへんの具体的な説明は抜きに、もしレンタネコなんてことをする人がいたら・・・というファンタジックコメディの要素がある映画です。

◆現在・前世・将来

 具体性のなさと言えば、サヨコそのものが現実から浮き上がっているような存在です。2年前まで祖母と暮らしていたというサヨコですが、両親については一切の消息が描かれず、その生活には親の痕跡すら感じられません。そんな彼女について、垣根を隔てた隣の家のおばさん(小林克也)は「あんたの前世はセミだ」と因縁めいたことを言います。だから男は寄って来ず、猫しか寄って来ないのだそうです。
 サヨコの目標である「今年こそ結婚する」は、彼女の暖かい家庭に対するあこがれなのでしょうか。逆に彼女は家庭や結婚などに実体験から来る具体的なイメージを持っていないように見えます。彼女の最強の味方だったおばあちゃんが亡くなったあと、猫たちが彼女の心の穴を埋めてくれたようですが、多くの猫たちでも埋められないものがあり、それが何かはサヨコにもまだつかめていないようです。
 同年代のレンタカー屋の孤独な吉川と「自分たちは女性としてCランク」と意気投合したあと、彼女がちゃっかりハワイに行くことになり、吉川を「世界中から取り残されているようだ」と同情して猫を貸してあげたのに、自分がその気分を味わうことになってしまいます。

◆偶然の再会

 中学の同級生の吉沢から呼ばれた「ジャミコ」というあだ名は「ウルトラマン」に出てくる、首が胴体に埋まった気持ちの悪い怪獣「ジャミラ」がもと。こんなあだ名をつけられるくらいだからサヨコはちょっと周りから浮いた子。いつも保健室で寝ているサヨコと、やはり周りから「うそつきはったり」と呼ばれる吉沢とは、はみ出し者同士気楽に話せる間柄でした。この吉沢とのシークエンス(物語の中のひとつのまとまりとなった部分)がいい。
 大人になった吉沢に異性を意識して緊張するサヨコ。この再会が彼女の日常を打開する方向に進むのかと思いきや、意外な展開が待っています。

◆負けてもいい

 こういう映画は一部の人からは何が面白いのかと思われるかもしれません。戦って己の望むものを獲得しようとする競争原理の中で生きている人には、生産性のない若い女性がブラブラしているだけ、と全否定されてしまいそうです。が、そうした価値観は果たして絶対でしょうか。勝っているときはいいですが、負けたとき、もっとムチ打ってと言える人はどれだけいるでしょう。
 やっぱりアメ玉が必要なのです。アメ玉が問題を解決してくれるわけではありませんが、いっときアメ玉でエネルギーを補給して、また仕切り直すことができるのです。
 サヨコは結婚することで自分の不全感が満たされるとは思っていないのでしょう。むしろ人とのつながりの中で悩むお客さんたちの姿を見てしまいます。疎外される寂しさを埋めてくれるアメ玉の役を人間に求める難しさを知っているから、猫を貸すのです。考えてみれば、猫はネズミを捕る以外あまり取柄のない生き物。「お前はエライなあ」と人を卑屈にさせないところが、猫のアメ玉効果かもしれません。

◆気持ちのいい距離

 脚本も手掛けた荻上直子監督は『かもめ食堂』(2005年)や『めがね』(2007年)でも、女性主人公の他人とのゆるい結びつきを淡々と描いています。結びつく他人の方も何をしているのかわからない人。お互いに立ち入ったことは聞きません。経歴や家族といった属性を脱いだ、その人そのものと個と個として結びつきます。自分の「気持ちいい」を求めた人々が、気持ちのいい部分だけでつながっているのです。
 何十年かして、21世紀初めの日本の女性史を探るうえで、荻上監督の映画は(登場人物のファッションも含め)、大いに参考になるかもしれません。

 主役の市川実日子は『シン・ゴジラ』(2016年/総監督:庵野秀明)での、環境省自然環境局野生生物課長補佐のち代理・尾頭ヒロミのクールな演技で強烈な印象を残しました。ちょっと怒り顔の彼女、クセのある若い女性の役が多かったと思います。中年以降どんな俳優になっていくか、注目です。

 

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